思春期前の子どもが筋トレはしない方がいいという事を聞いたことがありますか?
よく聞く理由として、そもそもホルモンの関係で筋肉がつきづらいため筋トレをやっても時間の無駄だという事が言われます。
実際に思春期前の子どもに筋トレは効果がなく無駄なのでしょうか?
思春期前の子どもを対象とした研究報告から考えていきましょう。
思春期とはいつを指すのか?
さて、そもそも思春期とはいつのことを指すのでしょうか?ここを明らかにしなければ思春期前を決める事ができません。
心理的な変化等も含めて思春期と考えられますが、本記事では身体的な部分にのみ絞って書いているため、身体的な部分に関してのみ言及していきます。
タナー段階
身体的な部分で思春期に入るかどうかはタナー段階(wikipediaがわかりやすいです)でチェックされる事が多く(大山)、完全に思春期前というとタナー段階1の事を指します。
ですから理想ではこの記事はタナー段階1の子どものみを用いたリサーチで論じれば良いのですが、現実的には個人差があったり必ずしもタナー段階がチェックされているわけではないため全てタナー段階1のみの子どもだけの研究で論じることはとても困難です。
そのため本記事では単純化するために日本でいう小学生以下(被験者の平均年齢が12歳未満)相当のリサーチのみピックアップして論じていこうと思います。
思春期前の子どもは筋肉がつきづらいのか?
筋肉がつきづらいかどうかという事を筋肥大という観点から見てみましょう。
Ozmunらは平均10.3才の男子に対して週3回8週間バイセプス(アーム)カールを7-10回 x 3セットを実施させました。その結果実施しないグループと比較して筋力の向上はありましたが、トレーニンググループとトレーニングをしなかったグループで腕のサイズの変化に差はありませんでした
ちょっと期間が短かったかもしれません。さらには腕のサイズを測っただけで筋のサイズを測ったわけではありません。
では20週間実施して筋の横断面積を測定した研究ではどうでしょうか?
Ramsayらは9-11才(タナー段階不明)の男子に対して20週間、週に三回1RMの75-85%で3〜5セットの筋力トレーニングを行い筋力トレーニングの効果を調べました。測定ではベンチプレスやレッグプレスの1RMなどの他に、筋の横断面積の変化を大腿部と上腕部の変化を測定しました。20週間トレーニングを行ったにも関わらず優位な筋の横断断面積の変化はありませんでした。
通常大人だったらこれくらいの強度のレジスタンストレーニングを20週間実施したら筋の横断面積は増大しますが9-11才には起こりませんでした。
さらに比較的最近の研究でも筋肥大は起こらないという結果が出ています。
Granacherらは平均8.6歳でタナー段階1の子どもたちを対象に週2回10週間、1セット10〜12回の筋トレを実施しMRIで大腿部の軟部組織のサイズの変化を見たところ、トレーニングを実施した群としていない群において統計的優位な軟部組織のサイズの変化はありませんでした。
一方で筋肥大が起こったという報告も存在します(Sgroら、福永ら)。
ですから完全に筋肥大しないと結論づけることは出来ません。
もちろん大人と筋トレを同ボリュームで同じような栄養の取り方、同じような休養の仕方など完全に条件を統一しての実験などは不可能ですから直接比較するのは無理でしょう。
しかし、近年までの研究を見ると概ね思春期前の子どもは大人よりも筋肥大しにくいという見解が優勢です。(Blimkie、Fleck、Kramerら、Faigenbaumら)
その理由として思春期前の子どもは男性ホルモンであるテストステロンの分泌が少ないという事が考えられています。つまり女性が筋肥大しにくいと考えられている事と同じですね。
やっぱり筋トレには意味がないんでしょうか?
でも筋力は伸びる。
これは上で貼ったリンクをみていただいてもこれから紹介する文献を見ていただいてもわかる通り筋力ははっきり伸びるんですね。
Ramsayらのリサーチではベンチプレスの1RM挙上重量は34.6%、レッグプレスは22.1%伸びています。挙上フォームが改善したことによって伸びたのでは?という見解もあるかもしれませんが、挙上テクニックがほぼ必要ない等速性筋力測定器での測定も肘を曲げる動作で21.3%、膝を伸ばす動作では21.3%伸びています。
最初に挙げた三つのリサーチ全てで挙上重量や発揮トルク(筋力)は伸びていますし、その他の検索すれば筋力が伸びた研究報告は枚挙にいとまがありません。
NSCAのポジションステイトメントによると8〜20週間の間で最初と比べると大体30%程度伸びるようです。研究によっては74%伸びたものもあります(日本語版もあるので英語が苦手な方は是非。読むだけでかなり勉強になります)。
つまり筋量は増えなくても筋力は間違いなく伸びると断言できます。
ですので思春期前の子どもに筋トレは筋力を向上させることには効果があるという事です。
その要因として運動単位動員の増加・同期化・発火頻度の増大など神経筋系の能力が向上し発揮筋力を向上させると考えられています(NSCAポジションステイトメント、Myersら)。
その他に効果のある事は?
身体組成の改善
いくつかの研究では子どもの除脂肪体重の増加など身体組成に良い影響が出たことが報告されています。
Josefらは平均11.0歳(±2.5)(タナー段階不明)の男女に12週間の筋トレを実施したところ、実施したグループの除脂肪量は2.68kg(±3.74kg)増加し、実施しなかったグループは0.43kg(±1.65kg)の増加であり、このグループ間で増加率において統計的有意な差がありました。
一方で測定方法は測定誤差の大きいインピーダンス法であり、どれくらい正確に測定できたかは疑問が残ります。
その他Melindaら、Sungらも除脂肪量の増加を報告していますが、測定方法の記載がなかったり、インピーダンス法であったりするため正確性は疑問符がつきます。
2013年にscharanzらがメタアナリシスといって今までの研究を総合的にまとめてどうだったか?というような報告をしていますが、身体組成に関しては小さな効果しかなかったと述べています。
改善する可能性もあるけれども過大な期待はできないと考えたほうが良さそうです。これは筋肥大と同じですね。
骨密度・骨ミネラル含量
Clareらは平均年齢10.4歳(±1.0)(タナー段階1)の男女41人に6週間の筋力トレーニングを実施したところトレーニングをしなかった41人よりも骨ミネラル含量統計的有意に増加したことを報告しています。
またMorrisらも9-10歳の女児(タナー段階不明)の骨ミネラル含量もトレーニングをしなかったグループと比較して増加していたことが報告されています。
適切なエクササイズと負荷で筋トレを行うと大人も骨の健康に好影響があるのと同じように思春期前の子どもに適切に負荷をかけることで骨の強度にポジティブな影響があると考えられます。
ちなみにこの事は骨端線が閉じて身長の伸びが止まるということではありません。子どもと筋トレと身長に関してはまた別の記事で触れていきます。
運動パフォーマンスの改善
運動パフォーマンス(Motor Performacne)とは立ち幅跳びや垂直跳び、実際に走る速度などを測定したものです。
weltmanらは平均年齢8.2歳(±1.3)の男児26名に油圧負荷を使ったレジスタンストレーニングを14週間・週に三回実施したところ垂直跳びは10.4%の増加、柔軟性は8.4%の増加、最大酸素摂取量は19.4%増加した。
さらにChaouachiらは平均年齢11歳(±1.0)の男児に12週間、スクワットやランジなどを含んだレジスタンストレーニングを実施させ垂直跳びや5m走などのタイムを改善させることを報告しています(なおオリンピックスタイルリフティングとプライオメトリクスと伝統的レジスタンストレーニングを比較している)。
その他にもいくつかの運動パフォーマンス改善が報告されています(Lillegardら、Flanaganら)。
一方で運動スキルは改善しなかったという報告があります(faigenbaumら,1993,1996,2002 。これらは全てマシントレーニングで実施されており、実際の運動動作とはやや離れていると考えられ、パフォーマンスの転移効果が低かったと考えられます。
今までの思春期を含めた思春期以前の子どもを対象とした筋トレが運動パフォーマンスに与えた影響の研究をまとめたメタアナリシスをBehringerらが2011年に発表し、筋トレは運動パフォーマンスに効果があり、さらに年齢が低い方が運動パフォーマンス向上に効果がある事を報告しています。
筋トレは運動パフォーマンスを改善させますが、マシンなど実施される動作から遠い動作である場合、筋力は向上しますがスクワットなどのフリーウェイトでの構造的エクササイズなど実際の動作に近い運動を行うことでより運動パフォーマンス向上に効果があると考えられます。
トレーニング効果はある
これらを総合的に見たら思春期前の子どもにとって筋トレは「効果がある」と言えるでしょう。
しかし「無駄か?」どうかはまだ決める事はできません。
なぜならそれは個人・団体の状況や価値観によって決まるからです。
不定期になりますが、「子ども」カテゴリーで子どもの筋トレの周辺環境やトレンドなどから「無駄か?価値があるか?」をあなたが決める材料をご紹介していきたいと考えています。
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